吉田かずお先生から、日本の催眠術の歴史を描いた
『催眠術の日本近代』(一柳廣孝著・青弓社)を
紹介していただきました。

明治後期の催眠術ブームの後、人を惑わす術との悪評から一旦廃れ、
昭和の初期に至って、霊術と言う名称で再興する流れが
詳しく描かれています。

現在以上に催眠が広く一般に受け入れられていた時代が
日本に存在したことが分かります。

明治後期から戦後に至るまで、女性解放運動家として活躍し、
有名な『元始、女性は太陽であった』の文章で知られる
平塚雷鳥についての面白い記述が、ほんのちょっと登場します。

明治末期に禅に凝った平塚雷鳥が、禅の体験を
「神秘に通じる唯一の門」として“精神集注”と呼んでいます。

彼女は「催眠術による“完全な催眠状態”」と
「接吻の“恍惚”」を類似する精神状態として挙げています。

「共産制が行われた暁には、恋愛も結婚も自然に自由になりましょう」
という文章を彼女が自分の文芸誌に載せただけで発禁になる時代に、
とても大胆なたとえです。

この記述からだけでも、当時からすでに、広く普及していた催眠術が、
禅体験や性的恍惚と類似した変性意識を導くものと知られていたことが
分かるのです。