1978年日本人写真家の古屋誠一は、旅先のオーストリアで
クリスティーネに出会って恋に落ち、結婚をしました。
夫は若く美しい妻を撮影し続けました。
子供も生まれ、幸せの絶頂にあった83年、
彼女は役者になりたいと言い出します。
その頃から精神に異常を来たして、85年に投身自殺してしまいます。
10年余りを経て、彼女の膨大な写真は美しい写真集となりました。
一旦手にした至福を見失ってしまった彼女の姿が写っています。
吉田かずお先生は最近 “逆催眠”について考えているそうです。
“逆催眠”とは特定の人物に強い暗示を与え続けた結果、
その人物の精神が不安定になり、突如、暗示内容に逆行する言動をし始め、
催眠者に対しても強い嫌悪や憎悪を抱く状態のことだそうです。
変性意識状態の女性に、男性が「君は素敵な人だ。ずっと大切にする」
と言い続ければ、彼女の無意識の中で自己愛が膨張して行きます。
しかし、周囲がそれに見合うほどに彼女を尊重しなければ、
いつか自己愛は破綻します。そして、無意識は、暗示内容を否定し、
暗示者を糾弾することで心の帳尻を合わせるのです。
モデル撮影のモデルが抱く独特の恍惚感を想像すると、
撮影が催眠行為であることに思い至ります。
幸せなクリスティーネに5年間与え続けられた愛の催眠が、
突如“逆催眠”に変質し、彼女を死に追いやったのかもと、
ふと考えてみました。