18世紀後半の催眠術の巨人、フランツ・アントン・メスメルの
500ページ近くある伝記『眠りの魔術師メスマー』を、
ようやく読み終えました。
“メスマー”は英語発音です。

 メスメルは、当時の一大文明都市だったウィーンの大学などで
複数の博士号を取得しています。

科学者であり、医師であると言う自負から、
自分の施術が催眠術ではなく、
動物などの生体が持つ動物磁気と呼ばれる
特殊な磁気を調整する技術であると主張し続けました。

 英語では、一般的な催眠術をhypnotism、
メスメルの行なった催眠術をmesmerismと呼んで区別しています。

しかし、伝記を読む限り、「メスメリズム」に
特殊な催眠原理などは見当たりません。

桶を用いる有名な手法は、大量の患者に対応するための
集団催眠術に過ぎません。
金属棒で触れるのは動物磁気の伝導を良くするためで、
手で直接触れることも多いようでした。

 メスメルの名前は全欧に知れ渡っていたので、
メスメルに会った段階で、既にラポール形成は十分だったはずです。

貴族相手の個別の施術では、
明らかに弛緩系の催眠誘導を行なっていますが、
目をじっと見つめ、手で触れるだけで誘導が完成し、
後は施術の目的そのものが暗示となり得たことでしょう。

パーティーで政敵を怒鳴りつけ、
瞬間催眠で動けなくしてしまった逸話などもありますが、
「メスメリズム」は、現在知られる催眠術の範囲で、
メスメルが用いた各種手法の総称でしかありませんでした。