中国の荘氏の考え方の核と言われる話に、
『渾沌、七竅(きょう)に死す』があります。
中央の帝である渾沌には目鼻口の7つの穴がありません。
彼に歓待を受けた南海の帝のしゅくと北海の帝を忽(こつ)は、
お礼に渾沌の顔に7つの穴を開けますが、人間らしい顔ができたら、
渾沌は死んでしまいました。
しゅくと忽は“はやい”・“すぐ”が原義にあり、人間の象徴です。
それに対して、無秩序を示す渾沌は、人智や人為が及ばないものごとの
本来の状態です。
その渾沌に、見聞きし、食し、息をする人間の営みを教えたら、
死んでしまったという寓話です。
ものごとは、曖昧にしておくことが良いという、
ノーベル賞受賞者の湯川博士も好んだと言われる有名な教えです。
昭和中期の高名な催眠術師、守部昭夫の直弟子である
吉峯幸太郎の書籍『催眠のすすめ』に、渾沌の話が登場して
驚かされました。
物事にこだわりすぎて悩みを持ってしまった被験者に対する
催眠治療の中で、渾沌の話を後催眠暗示に用いると言うのです。
子供でも分かるような優しい言葉が良いと言われたりする暗示文ですが、
人生の教訓や格言などを直接に暗示として用いる技法が
多数紹介されていました。
このような所にも催眠技術の広がりを感じるのでした。