「動物磁気はまさに大発見ではありますが、実に説明しがたいものです。(中略)被催眠者には透視力がそなわって、自分の疾患にとどまらず、他人の疾患さえ言い当てられるのです。彼らにはいつ治るのかもわかるのです。被催眠者の言葉はまさに自然が発する真実の声なのです」。
19世紀初期にメスメルから“動物磁気”を学んだピュイセギュール侯爵が、メスメルに言った言葉です。ピュイセギュール侯爵は自分の領地で動物磁気治療の実践を重ねるうちに、動物磁気の考え方から離れ、「意思と信頼に基づくトランス状態」が治療のカギであることを見出した人物です。
この言葉の後半では、当たり前のように催眠術によって、透視能力のような超常的な力が被験者に発現すると言っています。日本では、明治43年から44年にかけて「千里眼事件」と呼ばれる透視・念写などの超常能力の有無を巡って起きた世論も学会も二分する論争が起きています。この事件の千里眼を持っていたと言われる女性、御船千鶴子は親戚から催眠術をかけられて、透視能力を発現させたことが知られています。
明治から昭和にかけて、多くの政治家や実業家に師事されている中村天風は、思想家として、そして日本初のヨガ行者として知られています。彼もひと目で病人の病気を言い当てたり、妊娠数ヵ月で赤ん坊の性別を判定できたことが知られています。
このように、催眠術がトランス(変性意識)状態を介して、人間が無意識の領域に持つ能力を引き出す事実は、とても興味深く思えます。